【旅と本】河童が覗いたヨーロッパ

【旅と本】河童が覗いたヨーロッパ

「河童が覗いたヨーロッパ」は、舞台美術家である作者が、芸術家派遣研修のため訪れたヨーロッパを旅しながら、見たものや感じたこと、興味の対象となるあらゆるものをスケッチしてまとめた一冊。1年間で訪れた国は22カ国、泊まった部屋は115室。旅のエピソードや作者が考えたこと、国際列車での移動、泊まった部屋のスケッチから構成される本作は、全ページ手書き(描き)で表現されており、作者の人柄や旅の息づかいがダイレクトに伝わってきます。

手描きのあたたかさと、繊細な観察眼

独特な手描きのラインが美しく、泊まった部屋の俯瞰図や国際列車の車両スケッチなど、間取り好きにはたまりません。味のある文字と表現に、旅の驚きや喜び、こだわりが感じられます。

ヨーロッパ各国の国民性について、またある時は歴史について、暮らしのルールについて、学びながら一緒に旅している気分になれるのは、作者の繊細な観察眼がなせるワザ。国際列車で国境を越えると、車掌さんの服装や持ち物が変わること、同じ値段の部屋が地域によってグレードがかなり変わること、北から南へ移動する間に、気候や日射量の変化で窓の大きさや構造が変わってくることなど、小さな発見があちこちにちりばめられています。

旅の登場人物は多い方が楽しい

この旅をよりいっそう魅力的なものにしてくれるのが、街の人々という登場人物たちです。好奇心のかたまりとなって純粋にぶつかってくる作者に、みんな面白がって話しかけたり、街についていろいろ教えたりしてしまうのです。

その土地の言葉がわからないのに、なぜか現地の人には通じて仲良くなる人がいますが、作者もまさにその一人。日本語しかできないと言いつつ、街の人やホテルのおじさん、国際列車の車掌さん、泥棒(未遂)とまで交流できちゃうところがすごい。「天井にのぼらないでどうしてこんな絵が描けるんだ?」というホテルフロントのロケンティー君の問いに対して、「だれもいないときに部屋の中を飛びまわっているのさ」と答えるおちゃめな人柄がとても印象的でした。得点法で旅を楽しむという作者ですが、「河童ののぞき的好奇心」で旅を楽しめるのもひとつの才能なのだと思います。




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